日本におけるMVAの認可

2012年のWHO(世界保健機関)の勧告では、妊娠12週までの症例の場合、薬剤もしくは吸引法による人工妊娠中絶が推奨されています。日本においては、現在、経口の人工妊娠中絶薬は承認されておりません。

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吸引法においては、MVAと、金属カニューレを用いた電動式の吸引法があります。日本では、2015年9月まで手動真空吸引の機器が厚生省から認可されていなかったため、金属のカニューレを用いた電動式の吸引法が普及しています。

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しかしながら、2012年のWHOの勧告では、初期の人工妊娠中絶の吸引法として、プラスチックによる柔軟なカニューレを使用するMVAを推奨しています。


2012年のWHOの勧告の原文と和訳の要点
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MVAは、すでに世界100カ国以上で使用されており、私は日本では、吸引法の概念が世界と異なっている可能性があると考えています。

当院でのMVAの約30年にわたる使用経験については、2015年11月に論文で発表しました。


その論文の中で書いたMVAの利点について、以下に示します。

MVAの利点

[産科と婦人科 Vol.82 No.11]

菊池淳:ソフトカニューレを使用した手動真空吸引法(manual vacuum aspiration : MVA)の使用経験 産科と婦人科 2015;11:1307-1314
◆通常キュレットを使用しないため子宮内膜の損傷が最小限

◆金属製カニューレでないため子宮穿孔のリスクが少なく、帝王切開の既往のある症例も安全に施行できる可能性がある

◆妊娠4~5週の胎嚢が数mmの症例でもほぼ遺残なく行える

◆胎盤鉗子が挿入困難な強度の子宮前屈や後屈の症例や子宮奇形、子宮筋腫の症例にも適応しうる

◆原則的にラミナリアの挿入なしで手術を行える

◆カニューレが柔軟であるため、子宮壁に対して一定以上の力が加わらない(力のかけ方に個人差が出ない)

◆習慣性流産などで手術が繰り返される症例でも子宮内膜を傷つけるリスクが軽減できる

◆流産時の染色体検査で十分な絨毛組織が必要な場合に、確実に清潔環境で検体を回収できる

◆子宮内膜の全面採取にも使用できる。 (金属カテーテルによる採取では、吸引びんとチューブに検体が残り回収が困難であるが、MVAではカニューレにシリンジが直接つながっているため、検体のほぼすべてを回収することが可能)

◆プラスチック製カニューレのため、痛みが少なく、麻酔量を減らせる可能性がある